外国人雇用
特定技能ビザの要件とは?外国人を雇う前に知っておきたい知識
2021.08.23
2021.09.02
高野国際行政書士事務所/外国人材紹介エージェント Global Village
代表 高野 大輔(たかの だいすけ)
商社とメーカーで海外営業15年を経て、地元茨城県で国際行政書士として起業。人手不足という地域課題を解決するべく、茨城特定技能サポートセンターを運営。外国人実習雇用士。
2019年4月に出入国管理及び難民認定法(通称:入管法)が改正され、新たに特定技能ビザが新設されました。このおかげで、ベッドメーキングなどの単純労働に従事する外国人労働者は大学卒業という学歴や母国での実務経験が不要になり、より採用されやすい環境になりました。
ただし、特定技能ビザの要件には日本語日常会話などの要件があるため、日本語能力の試験に合格していない外国人にはビザを発給できません。また、特定技能ビザは要件に該当する事業者でないと申請ができないというルールもあります。
今回の記事では、外国人労働者の雇用を検討している経営者の方に向け、特定技能ビザの要件と申請方法についてわかりやすく解説します。是非ご覧ください。
目次
「特定技能」はなぜ設けられたのか
これまで、日本での外国人労働者は外交・公用・教授・芸術などの特定業種と高度専門的な業種のみで許可されてきました。しかし、2019年4月の入管法の改正で新たに宿泊業、クリーニング業、建設業、外食業など、全14分野で相当程度の知識・技能を持つ外国人に「特定技能ビザ」が発給されることになりました。
それは一体なぜでしょうか?
「特定技能」が設けられた背景
特定技能ビザは、日本の深刻な人手不足を改善するために導入されました。そもそも国内の労働力不足は、1997年から本格的に始まった「少子高齢化」が原因と言われています。
少子高齢化に伴う働き手の不足が深刻化
1997年に国内の高齢者の数が子供の数を初めて超え、2021年1月には国内の総人口における年齢別割合が15歳未満は11.9%なのに対し、65歳以上が28.8%と高齢者の数が子供の数の2倍以上※になりました。
※参照URL:令 和 3 年 1 月 20 日 総務省統計局「人口推計」より
新しく生まれる子供の数が減り、昭和の高度成長期を支えた労働力が高齢者として引退しているため、そのまま慢性的に労働力が不足している状況です。特に、最近では日本の高校生の大学進学率は55%と半数を超えていて、大卒学生の中には肉体労働的な職業を避ける傾向が強い方もいらっしゃいます。そのため、国内では特に肉体労働系の業種に人が集まりにくい状況が続いています。
生産性向上や国内人材確保のため
日本のGDP(国内総生産)はいま世界第三位ですが、アメリカ・中国の伸びに対して日本のGDPは1995年頃から20年間ほぼ横ばいで成長していません。そのため、日本政府では2019年4月より「働き方改革」をスタートし、各種補助金の要件にも生産性を取り入れるなど、国内の生産性を上げることに注力しています。
特定技能ビザの新設も、そんな生産性アップとしての施策のひとつと言われています。国内だけでは不足している労働力を外国人労働者で補てんすることにより、産業そのものの基盤を維持し、さらに生産性も向上するという目的が日本政府にはあります。
外国人労働者の受入が解禁された
日本で外国人労働者を雇うには、採用する外国人が「在留資格(=ビザ)」を持つ必要があります。これまで日本の外務省が実施していた在留資格には学歴(大卒以上)や母国での実務経験が必要で、そのハードルは少し高いものでした。
新たな在留資格「特定技能」では、大卒という学歴も母国での実務経験・高度な専門的知識も不要です。基本的に日常会話レベルの日本語を身につけていれば、日本で採用されてから研修やOJTで身につけることが可能なため、特定技能の対象外国人となることも可能です。
「特定技能1号」「特定技能2号」とは
特定技能ビザには1号と2号の2種類があります。1号は1年、6か月または4か月ごとの更新が必要で、最長5年間の在留資格を得られます。特定技能2号については、3年、1年または6か月ごとの更新をすれば、年数の制限なく在留が可能です。
1号と2号の違いですが、1号をとった外国人労働者が2号へ移行する場合のみ、申請することが可能です。そのため、初めて特定技能の在留資格で外国人を採用するのであれば、まずは1号へ申請することになります。
では、特定技能1号と2号の違いについてもっと詳しくみていきましょう。
「特定技能1号」とは
特定技能1号と2号にはそれぞれ対象の業種が決められており、2号は建設業と造船・船用工業のみが対象、1号はそれ以外の業種が対象です。1号では、建設業・自動車整備業・航空業・宿泊業・介護・飲食業など幅広い全14業種が対象となっています。
学歴要件 | 無し |
母国での実務経験 | 不要 |
日本語水準要件 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認 |
技能水準 | 相当程度の知識または技術を必要とする技能 |
家族の帯同 | 基本的に不可 |
特定技能1号に認められるには、以下2つの方法があります。
- 日本語と技能試験を受けて合格する
- 技能実習2号を受けて合格する
1つ目は、該当の外国人が分野ごとに課せられる「技能試験」及び「日本語試験」に合格することです。例えば、介護業とビルクリーニング業の場合は、以下の資格と実務内容が設定されています。
<例>
業種 | 必要な資格名 | 実務内容 |
介護業 | 国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験N4以上(上記に加えて)介護日本語評価試験 |
(注)訪問系サービスは対象外 |
ビルクリーニング業 | 国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験N4以上 |
|
参照URL:出入国在留管理庁|(事業者の方へ)特定技能ガイドブック
技能試験については、各業種の基本的な実務内容ができれば問題ありません。日本語試験のレベルですが、すべての業種で「国際交流基金日本語基礎テスト、または日本語能力試験N4以上」のレベルが求められます。日本語能力試験はJLPT(公益財団法人日本国際教育支援協会と独立行政法人国際交流基金)が主催していて、日本だけでなく海外でも受験が可能です。
参照URL:日本語能力試験 JLPT
技能試験の具体的な内容については、出入国在留管理庁が公表している特定技能ガイドブックのP3を見ると、具体的な実務内容)が書かれていますので参考にしましょう。
2つ目の方法は、該当の外国人が「技能実習2号」を良好に修了することです。技能実習については、この後でご説明します。
「特定技能2号」とは
特定技能2号の特徴は、①1号を受けたあとでないと申請ができない②対象業種が建設業と造船・船用工業のみ③在留可能年数に制限がない(更新し続ければ)の3つとなります。
加えて、1号では家族の帯同(同伴)は不可ですが、特定技能2号では家族の帯同も要件を満たせば妻・子の同伴も認められます。
「特定技能」と「技能実習」の違いとは?
特定技能1号では、新たに日本語検定に合格しなくとも「技能実習2号」を受講済であれば申請が認められます。特定技能と技能実習の名称は似ていますが、特定技能はあくまで「在留資格」であり、技能実習はあくまで「国際的な技術実習」という違いがあります。
「技能実習」とは?
技能実習はもともと、OTIT(外国人技能実習機構)による開発途上国等の外国人を技術習得のために日本へ送り出し研修を受けさせるシステムです。その種類は1号~3号まであります。技能実習が平成5年から開始され、多くの外国人が日本へ技能実習のために訪れました。技能実習の対価は外国人自らにより支払われ、最長で5年程度の期間となっています。
本来、技能実習は受入れ国ではなく送り出しをする国の技術向上のための実習で、「技術移転による国際貢献」を目的としています。しかし、在留資格の要件として日本語レベルなどを示すのにわかりやすいため、一部の技能実習は特定技能の要件も兼ね備えています。また、外国人労働者を受け入れる側としての日本企業も、技能実習を済ませた外国人を採用する傾向にあります。
「特定技能」と「技能実習」の違い
特定技能は在留資格そのものであるのに対し、技能実習はあくまで有料の実習とく位置づけになります。ただし、特定技能の要件として技能実習が含まれるため、少しややこしく感じる方も多いようです。
他には、両者には以下の違いがあります。
同分野内での転職 | 受入人数 | |
特定技能の有資格者 | 可能 | 人数制限なし |
技能実習の受講者 | 不可能 | 人数制限あり |
特定技能ビザで外国人を雇用できる企業の要件
「特定技能」在留資格で外国人を雇いたい事業者は、以下の要件をすべて満たす必要があります。
特定技能所属機関であること
特定技能所属機関とは、在留資格「特定技能」で外国人を受け入れる企業のことです。つまり、あなたの会社がAという名前の企業であり、これから外国人労働者を在留資格「特定技能」で受け入れたいのであれば、会社Aは「特定技能所属機関」として登録しなければ外国人を特定技能で採用はできないのです。
特定技能所属機関になるためには、申請しようとする企業(事業所)自体が適切であること(禁固刑などに処されたことがないこと)、外国人を支援する体制が整えられていること、随時必要な届出をしていること、が求められます。特定技能所属機関として登録できれば、5年間有効となります。
これに加え、特定技能所属機関として申請したあとは「分野別協議会」として登録する必要もあります。分野別協議会とは、特定技能の制度を適切に運用するため、各業界で連携を図るための組織です。加入手続きについては、「〇〇業(業界名)分野別協議会」と検索して表示されるホームページをご参照ください。
参照URL:法務省|特定技能における分野別の協議会について
特定技能所属機関が満たすべき基準
外国人を受け入れる機関(=特定技能所属機関)は、以下3つの義務を果たさなければなりません。
<特定技能所属機関の義務>
- ①外国人と結んだ雇用契約を確実に履行すること(例:報酬を適切に支払う)
- ②外国人への支援を適切に実施すること
→ 支援については、登録支援機関に委託も可。登録支援機関に全部委託すれば上記③の基準を満たす。
- ③出入国在留管理庁への各種届出を行うこと
参照URL:JITCO|在留資格「特定技能」とは
これらの支援を果たさない場合、新たに外国人の受入れができなくなる他、出入国在留管理庁から指導・改善命令を受ける可能性があります。
「特定技能」申請に必要な書類について
わたしたち日本の経営者が外国人を特定技能で受け入れる場合、主に以下の書類の準備が必要です。1.の申請書と4.の労働保険・社会保険・税に関する書類は外国人を雇う経営者と雇われる外国人労働者の双方で作成する必要があります。なお、すべての書類は原則、押印は不要です。
- 申請書(外国人・受入れ機関がそれぞれ作成)
- 技能水準,日本語能力水準に関する書類
- 労働条件に関する書類
- 労働保険・社会保険・税に関する書類(外国人・受入れ機関)
- 特定技能(1号)の外国人の支援に関する書類
- 写真(縦4cm×横3cm) 1枚
- 返信用封筒(定形封筒に宛名及び宛先を明記の上,404円分の切手(簡易書留用)を貼付したもの) 1通
ダウンロードURL(令和3年8月2日現在):出入国在留管理局|省令様式一覧
この他、窓口では申請者の身分証明書も必要です。ちなみに、この中で最も作成に時間がかかるのは、5.の外国人の支援に関する書類です。外国人等同社を雇う事業所は、外国人労働者を単に採用し雇用するだけではなく、外国人労働者を支援する必要があります。
具体的に、どの担当者がどのような方法(対面またはテレビ電話など)で外国人労働者を支援でくるのか、具体的に記入する必要があります。特定技能の申請書類には法的な専門用語も多く、書類を読みこなすだけでも時間がかかります。
そのため、外国人労働者を特定技能で雇おうかな?と思ったら、なるべく早めに情報収集することをオススメします。
特定技能ビザの申請方法について│必要書類や費用などのポイントについても解説
「特定技能」における対象職種
特定技能で対象となる14分野は、以下の通りです。
<特定技能要件で認められる14分野>
介護業 | ビルクリーニング業 |
素形材産業 | 産業機械製造業 |
電気・電子情報関連産業 | 建設業 |
造船・船用業 | 自動車整備業 |
航空業 | 宿泊業 |
漁業 | 農業 |
飲食料品製造業 | 外食業 |
この中で特に受入れが多いのは介護業と産業機械製造業で、産業機械製造業については技術実習生からの切り替えでも受入れをしている状況です。
上記の各業種には前述したように、別途「相当程度の知識または経験」の要件が設定されています。(日本語と実務)詳細は、特定技能ガイドブックのP3をご参照ください。
参照URL:出入国在留管理庁|(事業者の方へ)特定技能ガイドブック
「特定技能」資格者を採用する流れ
では、経営者が「特定技能」在留資格で採用するまでの流れを確認していきましょう。
①人材募集・面接
まずは外国人を受け入れるための人材募集を行います。さまざまな方法がありますが、店頭へのポスター掲示・ハローワークへの広告出稿は費用が無料です。他にも、外国人向け求人情報サイト(Gaijin Pot Jobs、JOBS IN JAPANなど)へ掲載する方法があります。求人情報サイトは最初から費用が発生する「広告掲載型」と募集があった際に費用が発生する「成果報酬型」の2つのタイプがあります。
特に気を付けたいのは、外国人の日本語のスキルです。日本語検定N4以上がないと、在留資格「特定技能」の対象外にもなるため、日本語検定の保持は広告を打つ時にしっかり明記しましょう。また、できれば長期間働いてほしい場合は「最低1年は働いてほしい」などの希望も記載するとよいでしょう。
②雇用契約
給与・シフト・業務内容・保険などの詳細について問題なさそうであれば、外国人と雇用契約を結ぶことになります。特定技能の申請には雇用契約書の写しが必要なので、必ず口頭ではなく書面を交わしましょう。
<雇用契約に含むべき項目>
- 雇用期間(更新の有無も含む)
- 就業の場所・連絡先
- 業務内容
- 労働時間の詳細・休日・休暇
- 賃金詳細・所定時間外規定
- 退職について
- 賃金受取人(本人署名)
以下のURLには、雇用契約書のひな型もありますので、ぜひ参考にしてください。
ダウンロードURL(令和3年8月2日現在):出入国在留管理局|省令様式一覧
③支援計画の策定
外国人を特定技能の在留資格で雇う経営者は、特定技能所属機関として外国人の支援計画を作成しなければいけません。外国人の支援計画は特定技能1号と2号で異なり、1号に申請する経営者は特定技能1号として支援計画を作成します。
支援計画は該当の外国人が読んで理解できるものでなくてはいけません。作成後にはその写しを外国人に手渡します。支援計画では、以下のように記載すべき項目が規定されています。
<支援計画に記載すべき項目>
- 支援責任者の名前
- 事前ガイダンスについて
- 出入国の送迎について
- 住居確保・生活に必要な契約支援
- 生活オリエンテーション
- 公的手続き等への同行
- 日本語学習の機会の提供
- 相談・苦情への対応
- 日本人との交流促進
- 転職支援(人員整理等の場合)
- 定期的な面談・行政機関への通報
外国人を採用すること自体がはじめての経営者であれば、これらの内容をすべて埋めるのは大変です。出入国在留管理庁では、特定技能所属機関をサポートする企業として別途「登録支援機関」を設けています。登録支援機関とは、専門的な知識・経験を持つ行政書士などが出入国在留管理庁へ届出をし、行政から認可されたものを言います。実際に外国人を採用する経営者と外国人の間に立ち、スムーズに手続きや支援が行われるようにサポートをしてくれます。(※実際の手続きは有償)
「外国人の受入れが初めてで不安」と思われる経営者は、特定技能所属機関となる際に実際の外国人の受入れ業務を登録支援機関へ外部委託することも可能です。
④ビザの申請
必要書類を揃えられたら、特定技能の在留資格を申請します。申請先は地方出入国在留管理官署です。地方出入国在留管理官署は全国に17箇所あり、札幌出入国在留管理や羽田空港支局などがあります。羽田空港支局など、一部在中資格の手続きをしていない所もありますので、詳細を以下のURLよりご角煮いただいてから申請する管理官署を決定してください。
参照URL:出入国在留管理庁|地方出入国在留管理官署
「特定技能」資格者を受け入れるための費用について
一人の外国人労働者を受け入れるためには、手続きや制度の整備などで諸々費用が必要です。だいたい一人につき5万円~30万円がかかりますが、この費用は受け入れる外国人がどの国の外国人なのかにもより異なります。なぜかというと、日本と一定の外国の間では悪質な業者を排除するために2国間協定を結んでいますが、それ以外の国の場合でも外国人労働者の送り出しをするよう求めている場合があり、別途、手続きが発生するからです。
例)ミャンマーの場合
5~30万円の費用が発生。このうち、10~20万円を送出費、人材の紹介料、教育費などとして雇い主である企業側が負担 |
よくある質問
では最後に、特定技能でよくある質問について触れていきます。
質問①宿泊業の実務内容の要件は?
A.宿泊業はフロント,企画・広報,接客,レストランサービス等の宿泊 サービスの提供が要件です。
質問②外食業の実務内容の要件は?
A.外食業は、外食業全般(飲食物調理,接客,店舗管理)です。
質問③自動車整備業の実務内容の要件は?
A.自動車整備業は、自動車の日常点検整備,定期点検整備,分解整備です。